皆さんこんにちは!
V字回復コンサルタントの李です。
本日は、事業承継と後継者教育に関連するコラムをお届けします。
あらかじめ申し上げておきますが、今回の記事はいつもより文章が長くなっております。
しかし、経営者の皆様にとって大変重要なことを書いておりますので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。
タイトルは、
「東芝とオリンパスの不正会計に思う~社長は不正会計せずに経営改革をしろ~」
です。
2011年7月、日本を代表する企業の一つであるオリンパスが、「飛ばし」たる会計トリックを使って巨額な損失を隠蔽処理していたことが発覚し、オリンパスだけでなく日本の企業及び株式市場全体の信頼を失墜させたことは記憶に新しいところですが、今また性懲りもなく同じような問題が発生して信頼失墜に追い打ちをかけています。
それは、今世間を騒がせている東芝不正会計問題です。
一連の問題発覚で、4ヵ月も遅れて発表された決算報告は、従来示していた1200億円の黒字予想から一転、378億円の赤字でした。
好調に見えていた業績は実はインチキで、「バイ(買い)セル(売り)取引」などの幼稚な会計トリックを使い、過去に遡ること7期にわたって、2248億円という巨額の利益を水増し計上していたことが明らかになりました。
これまで、名門企業だ、構造改革の旗振りだ、などと財界でもてはやされていた東芝ですが、実のところ、嘘をついてまで体裁を保とうとしていた「インチキ経営」会社である事が世間に知れ渡りました。
オリンパスと東芝に共通する問題は、閉鎖的な隠ぺい体質と脆弱な企業統治(コーポレートガバナンス)です。
更に問題は、こうした不正会計を取り締まるはずの監査法人が適正な会計処理であるとお墨付きを与えていたという事実です。
こうした問題が発覚する都度、これが「日本的経営」の一般的な姿なのだと言う印象と確信を、世界の投資家や経済人たちに与えているわけです。
オリンパス事件では、会長と副社長と常任監査役に懲役の判決が言い渡され、今回の東芝問題では歴代3人の社長が雁首揃えて辞任に追い込まれました。
私は、同じ経営に携わる者として、何よりも人として「恥を知れ」と言いたい。
経営に失敗したのなら正直に報告し、正々堂々然るべき責任を取って経営改革に努めればいい。
それをせず、巧妙に嘘をついて損失がなかったかのように取り繕い責任逃れをして権力の座にしがみつく。
これが人としてみっともないのです。
というのも、私は経営コンサルタントという職業柄、企業が永続的発展をする上で「公明正大な経営」と「誠実な会計報告」がどれだけ重要性であるか身をもって経験しているが故になおさら憤りを感じるのです。
経営トップが臭い物に蓋をして嘘を報告するような会社に信賞必罰はなく、その悪しき習慣は半ば常識となってあらゆる問題が先送りされ続けます。
更には、経営トップに異を唱える者はお払い箱になるという、強権人事がチラついて誰も何も言わなくなり、社長の腐った体質がそのまま会社の体質になっていきます。
するとどうなるか。
ますます業績が悪化するのです。
「経営者は不正会計をせずに経営改革をしろ。」これが、私が一番言いたいことです。
自分の経歴に傷がつかぬよう出世に精を出すのは結構だが、取締役になったにもかかわらずいつまでもサラリーマンをしているからこのような事になるのです。
「官僚組織は癒着と腐敗を招く」
21世紀というグローバルな時代に、いつまでも村社会に見られるような閉鎖的な経営はやめることです。
どんなに高い技術力があろうとも、どんなに強固な顧客基盤があろうとも、肝心の経営が腐っていては業績はおろか会社の存続さえも危ぶまれるという事実を我々は学ばなければなりません。
問題の原因は、経営者だけにあるとは言えません。
会社のオーナーである株主の責任も重大であると私は考えます。
後任社長の指名に対する人事権を現社長に委ね、社長を取り締まるはずの取締役が社長の子分にすぎず、黙って言う事さえ聞いていればところてん式に昇進することができる年功序列制度を作り出し、お勤めの最終章は役員という名誉と多額の退職金を貰って子会社に天下りするというシナリオ。
このような官僚組織を容易に作りだせてしまう脆弱な企業統治を認めていたのは「物言わぬ」株主です。
オーナーである株主、
経営者である取締役、
実務を遂行する社員、
異なる立場の者たちが、企業の永続的発展の為に健全に役割と責任を全うする仕組み作りが企業統治(コーポレートガバナンス)です。
脆弱な企業統治の問題を改善するためには、取りも直さず「社長人事」をオープンにすることです。
血筋で後継者を決める判断基準や、派閥の子飼いを後継者にする判断基準で、社運を左右する社長人事を決めるのはもうやめることです。
現社長に自らの進退と後継者指名の人事権を一任すればこうした問題がやがて発生して繰り返されます。
これは、規模の大中小を問わずすべての組織に言えることです。
近年、上場企業では、社外取締役を何人入れるなどと言った対策が取られてきましたが、人事権を持つ社長の前にその効果はむなしく、権威と高額報酬を目当てにした実践経営を知らぬ大学教授や著名な経営評論家が社外取締役に就任して頭数と世間体を整え、経営の実態は、何も変わっていなかったということが今回の東芝不正問題からも明らかになりました。
社長の進退と後継者を決める社長人事権。
これが、現社長にある限り何をしても無駄なのです。
経営の失敗に対して然るべき責任を自ら取って反省し経営改革に乗り出す社長ならそもそも長らく業績悪化に陥ることはありません。
それができない社長だから業績が悪化するのです。
挙句の果てには、経営改革を行わず不正会計に走る為、如何なる経営メソッドも有名無実と化すわけです。
実は私は過去に二度、とある株主から雇われ社長が経営する子会社の経営指導の依頼を受け、大変苦しんだ苦い経験があります。
利益改善という緊急課題に対し、利益改善の為の経営判断ではなく間違ったサラリーマンの論理で判断が下されていくのです。
つまり、実のところ業績など二の次で、金と権力の独占と派閥を作り上げることに腐心し、数字はひとまず体裁を整えておけばそれでいいというサラリーマン発想で経営する為、やがて、業績が悪化して不正会計と損失の隠蔽処理に手を染めていくというわけです。
私がここで得た教訓は、50過ぎまでサラリーマンでやってきた者が、年功序列のおかげである日肩書が社長に変わったからと言って経営者に変質することなど100%ないという事実でした。
そして、創業の苦しみと資金繰りの恐怖体験を乗り越えた者と、労基法で守られながら出来上がった基盤の上で無難に過ごしてきた者とでは精神構造から違うという事実でした。
脆弱な企業統治の問題解決には、社長人事を「指名報酬委員会」という第三者組織に委ね、プロセスをオープンにして公明正大に決定することが解決策の一つです。
しかし、これは抜本的対策ではありません。
唯一の抜本的対策とは、「経営者教育と育成」これに尽きます。
真の経営者たる「手腕」と「人格」が自然と備わる社風を作って、然るべきタイミングで然るべき教育を行う事です。
わかりやすく言えば、創業者精神あふれる社風を作り出し、35歳から45歳までの間に修羅場をくぐらせることが重要です。
その上で、良質な経営メソッドを叩きこむのです。
経営者教育における一番の教科書は、現社長の「後姿」です。
この記事をお読みになっている社長自身が、自分に厳しく潔白である事が求められているのです。
こうした社長の後姿と厳しい社風の上に、取締役の人事報酬制度やその運用の為の指名報酬委員会の設置といったノウハウが活かされるのです。