ウィズコロナ

 
前回のブログ「アフターコロナの世界と中小企業が進むべき方向性」から1年と4ヵ月が経ちました。

 
この間、人々はデルタ株の猛威を経験し総理も二人変わりました。

 
国内におけるワクチン接種率は75%を超え、感染者数は今のところ低水準で落ち着いています。

 
政府は今後、飲み薬(治療薬)の普及に合わせてコロナ対応から経済再開に重点をシフトしていくでしょう。

 
ただ、ワクチンの感染予防効果については人々が信じていたほど高くなかったようで、いち早く経済再開に踏み切った欧州やイギリスでは再び感染が拡大しています。
(と書いた矢先に南アフリカの変異体出現のニュースも)

 
おそらくコロナの完全撲滅は難しいことを示唆しているのでしょう。
ウィズコロナ(共生)の到来です。

 
今後、人々が以前のような消費行動や働き方に完全に戻ることはないでしょう。

 
では、ウィズコロナの世界において中小企業経営はどうあるべきでしょうか?

 
社会と経済が大きく変わりつつある今、その方向性を見極め未来のイメージを掴んで先手経営を行う経営者と、漠然と不安に駆られながら従来のやり方を続けている経営者とでは、今後の成長性と収益性、そして生産性に大きな差が生じます。

 
今回のブログではその手がかりになる「時代のキーワード」と、前回・前々回に引き続き「中小企業経営の三つの方向性」を併せて経営者の皆様にお伝えします。

 
キーワードは二つです。

1.Society 5.0

2.ESG

 
ご存知の方もいらっしゃると思いますが簡単に説明します。

 
ソサエティー5.0とは内閣府が掲げる経済と社会の未来像です。

 
経済発展と社会問題の解決を両立する為、情報通信技術(ICT)やAIと言ったテクノロジーを使ってサイバー空間とリアル空間を高度に融合した社会を作ろうと言うものです。

 
この説明だけではイメージしづらいと思いますので、内閣府が作成した動画(6分53秒)を一度ご覧ください。

 
これを見れば目指そうとしている未来がなんとなくイメージできると思います。

http://wwwc.cao.go.jp/lib_006/society5_0/society5_0_mirai1.html

 
動画にあるこうした流れは、コロナ禍によって10年推し進めたと言われています。

 
実際、人々はソーシャルディスタンスや不要不急の外出を控えることを余儀なくされることでこれまでの働き方や生活様式が大きく変わり始めました。

 
ある調査によれば、出張を伴う対面会議や通勤を伴う出社前提の働き方より、オンラインと在宅勤務を取り入れた今の働き方の方がワークライフバランスも取れて良いと感じている人が都心部を中心に増加傾向にあるようです。

 
こうした変化にいち早く対応して社員の働き方と全員出社を前提としたオフィスや営業所の必要性を見直し、フレキシブルな勤務制度の導入とコワーキングスペースの活用を進めて固定費を大幅削減し、生じた余力で事業投資を活性化させている会社もあるはずです。

 
また、コロナ以前から人海戦術やマンパワーや接待商談に依存した営業の在り方を見直し、顧客行動データとWebを使ったインサイドセールスの強化を進めた会社は、逆にコロナ禍が追い風となって売上と生産性をアップさせているかもしれません。

 
重要な事は、多くの人がソサエティー5.0のような世界を望んでおり、誰もその流れを止めることはできないと言う事です。

 
世界に目を向ければ、月間30億人のアクティブユーザーを要するFacebookは、この度社名を「メタ・プラットフォームズ」に変更し、メタバース(仮想空間)事業をメインとした会社に変貌しようとしています。

 
情報通信化社会(ICT)とデジタル経済が着実に進んでいる今、中小企業においてもSociety 5.0という潮流に沿いながらビジョン実現に向けて「DX」を推し進める姿勢が必要です。

 
もう一つの大きな潮流がESGです。

 
ESGとは「環境」「社会」「企業統治」の英語の頭文字で、環境や社会やガバナンスに配慮した誠実な経営を行いましょうと言うものです。

 
脱炭素社会、再生可能エネルギー、人権問題、多様性とワークライフバランスの尊重、積極的な情報開示、取締役の多様性と資本効率(ROE)を意識した経営などは全てESGへの取り組みと言えます。

 
ESGという考え方は、持続可能な社会を目指す「SDGs」と共に世界標準になっています。

 
特に欧州で進んでおり、日本を含むアジアではその意識がまだ低く取り組みが遅れていると言われています。

 
例えば、同じ島国であるイギリスの総電力に占める再生可能エネルギーの割合(2019年度)は33.4%(対する日本は18%)で、10月4日にジョンソン首相は2035年までに全電力を再生可能エネルギーまかなうことを目指すと公言しました。

 
また、脱炭素社会に向けてガソリン車から電気自動車へのシフトを推し進めており、ガソリン車を乗り入れる場合は税金を払わなければならないエリアがロンドンを中心に広がっています。

 
人権問題に関しては、新疆ウィグル地区産の綿花を使ったユニクロ製品が米国で差し止めされたニュースは比較的記憶に新しい所です。

 
ガバナンスに関しては、数年前のオリンパスや東芝の不正会計問題や歴代役員からなる多数の相談役と顧問の存在と言った院政とも見られる前近代的な経営が問題になりました。

 
ユニクロの件など一部に政治的背景を感じる所もありますが、確かな事はESGという潮流は今後も先進国を中心に広がり続けていくと言う事です。

 
以上、ESGに関して大きな視点で見てきましたが、ESG経営を中小企業経営視点でまとめるとこういう事です。

 
ESG経営とは、「地球環境に負担をかける生産・消費・廃棄の在り方や、世界の誰かの犠牲の上に豊かさと安定を築いて見てみぬふりをすると言った20世紀型経済はもうやめましょう、人事給与や働き方にて性別格差や人種差別やブラックはやめましょう、閉鎖的な密室経営はやめましょう」と言う事である、と理解しても大きな間違いではないでしょう。

 
こうした価値観は世代間に大きなギャップがあると私は感じています。

 
若い世代ほどESGやSDGsに対する意識は高く商品や就職先選びの基準になっています。

 
一方、中高年の多くは昔ながらの価値観のままで時代に取り残されているケースは少なくありません。

 
例えば、

 
森(元)オリンピック組織委員長の悪気の無い軽はずみな女性蔑視発言と後任人事指名で一転二転したあのニュース。

 
救命活動を行う女性看護師に対し、土俵から降りるよう協会がアナウンスと直接指示した上に大量の塩を撒いたとして、伝統もいいが今の時代それも如何なものかと世間から物言いがついたあのニュース。

 
一方、社内においては年功序列型の人事給与制度の問題や勤続年数が経つにつれて広がる男女の処遇格差など。

 
経営トップのESGに対する理解と意識の差は、商品開発、集客・営業戦略、重点販売商品、採用育成、人事給与制度、組織制度などあらゆる分野に影響します。

 
経営環境が大きく変わりゆく今、中小企業においてもESGというコンセプトのもと経営改革を推し進めていく必要があります。

 
では、こうした潮流の中で中小企業は何をどのように変えていけばよいのでしょうか?

 
ここで思い出してほしいのが、前回・前々回のブログで示した「中小企業が向かうべき三つの方向性」です。

 
1.雇用形態の多様化と実力主義の人事給与制度

2.進化した持たざる経営

3.実質無借金のレバレッジ経営

 
この方向で経営改革を行えば、DXとESGを取り入れながらコロナ禍の売上激減によって露呈した三つの経営リスク(①人件費、②地代家賃、③借入金返済)の問題も同時に解決することができます。

 
・多様性とワークライフバランスの問題。

・男女格差や人種差別の問題。

・閉鎖的な密室経営の問題。

 
こうしたESGに反する問題の原因は、かつて日本的経営の三種の神器と呼ばれた年功序列・終身雇用・企業内労組に基づく画一的な雇用形態と人事給与制度、相互依存度の高い労使関係と骨を埋める滅私奉公的な働き方、そしてこれらを良しとした古き良き時代の価値観に起因しています。

 
時代に合わせて考え方と制度設計も変えていかなければなりません。

 
しかし、大きな問題があります。それは中高年社員の問題です。

 
私の現場経験からして、経営の問題を多く抱える中小企業社員の年齢別構成比率は日本全体のそれと似通っています。

 
・棺桶型と呼ばれる逆三角形の世代別人口構成。

・加速していく少子高齢化と労働力人口の減少。

・変わる事がない中高年の価値観。

 
問題の根っこにこうした原因があるだけに人事給与制度の改革は容易ではありません。

 
しかし変えていかなければどうなるか?

 
商品開発にせよ販売方法にせよ人事給与制度や組織制度などあらゆる分野で陳腐化が進み時代に取り残されます。

 
こうした会社に有能な若者が入社する訳がなく、組織はますます活力を無くして衰退していくでしょう。

 
繰り返しますがこの問題は原因が原因だけに大変デリケートで難しい。

 
であるが故に、上手に人事給与制度改革を推し進める知恵とノウハウが必要です。

 
何よりも社長の決断力とリーダーシップが不可欠である事は言うまでもありません。

 
次に、2「進化した持たざる経営」3「実質無借金のレバレッジ経営」について前回・前々回に追加してお伝えします。

 
そもそも「持たざる経営」とは、1990年初頭のバブル崩壊を機に注目され始めた経営スタイルです。

 
バブルに浮かれ「財テク」に走り、土地や株や保養施設をこぞって買った当時の多くの会社は、バブルの崩壊と共にこれらの資産価格が暴落して塩漬けになり身動きが取れなくなりました。

 
こうした事態に至った反省から今後は非事業資産を持つべきでないという経営の本筋が見直されたわけです。

 
しかし、グローバル化と情報技術革新が進んだ現在に至っては、事業資産でも収益を生まない本社ビルを一等地に持ち続ける必要性や、顧客満足に直結しない固定資産を持ち続ける(或いは新たに持つ)必要性が問われるなど一層の経営効率化が求められています。

 
更には、工場や設備、営業所や車両と言った事業資産さえも、3Dプリンターやシェアリングエコノミーの出現によりアウトソーシングで多くの部分を賄うことができるようになりました。

 
こうした「持たざる経営」の流れはバランスシート改革に留まらず損益計算書においても進行しています。

 
これまで社員が行っていた間接業務は次々と専門業者やフリーランスにアウトソーシングされています。

 
更には、副業解禁の流れが広がるにつれ、在宅勤務専門スタッフや掛け持ち社員の活用(例えば大手企業に勤めるマーケティング社員を月四日オンライン勤務形態で契約)など、雇用形態を多様化すれば人材さえも(多く)持たざる経営が可能です。

 
土地建物や設備など目に見えるモノに価値を感じそれらを所有する事にこだわり続ければ、バランスシートにおける資産が無駄に膨らみそれに伴って借入金も膨らみます。

 
また、昔ながらの親分子分の関係のような経営感覚のまま、正社員の雇用・維持に過剰なこだわりを持ち続ければ必然的に固定費が膨らみ損益分岐点売上高が高くなるばかりか、硬直的なコスト体質が災いしてコロナ禍のような不測の事態に柔軟に対応ができなくなります。

 
こうした土地や資本(他人資本と自己資本)や労働力は、ソサエティー3.0(工業化社会)においては生産の三要素と呼ばれ自前で持つ事が事業を営む必須条件でした。

 
しかし、ソサエティー4.0(情報化社会)の時代に入り、そうしたものを持たずに急速に成長してきた会社があります。

 
それがアマゾンやグーグルやFacebook(メタ・プラットフォームズ)に代表されるIT企業です。

 
これらの創業者は生産の三要素を持たない代わりに、「アイディア、情熱、情報技術」を持って起業し時代の波に乗って大きく成長しました。

 
そうして稼いだ利益を何に使ったのか?

 
それは、「固定資産」ではなく「無形資産」です。

 
無形資産とは、ブランド、信用、人財教育、研究開発、ソフトフェア、データベースと言った通常は貸借対照表に載らない見えない価値です。

 
これは会社の合併買収(M&A)や株式上場(IPO)時に評価され、「のれん」や「営業権」の名称でバランスシートの資産の部に計上されます。

 
無形資産は大きく三つに分けられます。

 
1.情報化資産

2.革新的資産

3.経済的競争力

 
情報化資産とは、ソフトフェア、データベース、コンテンツ等です。

革新的資産とは、研究開発、デザイン、ライセンス等です。

経済的競争力とは、ブランド力、組織変革力、人財教育力等です。

 
ソサエティー5.0(AIとメタバースの時代)の幕開けを前にして、中小企業の経営者がまずやるべきことは必要不可欠ではない固定資産や固定費を捨てることです。

 
次に規模の大小を問わず、一切の業種を問わず、一切の言い訳抜きで上記した三つの無形資産に集中投資するのです。

 
繰り返します。

 
必要不可欠でない固定資産は処分してその資金で借入金を返済し、無駄な固定費は削減して必要経費も知恵を出してやり方を変え変動費化しながら総額を削減しスマートでしなやかな体質にするのです。

 
こうして捻出した資金と労力を無形資産に投資し、稼いだ利益を更に無形資産に再投資して成長のサイクルを作り出すのです。

 
こうすれば、いやでも実質無借金経営※になります。

※実質無借金=現金預金-借入金=>0

 
その上であえて借り入れして(財務レバレッジをかけて)無形資産投資やM&Aを行い成長を加速させるのです。

 
これが私の言う「進化した持たざる経営」「実質無借金のレバレッジ経営」です。

 
何かを得るためには何かを犠牲にする必要があります。

全てを守ろうとすれば全てを失う事になる。

内向きな経営を行っていては時代に取り残される。

 
経営者として未来を見据えて選択と集中を断行できるかどうかが今問われているのです。

 
最後にDX(デジタル トランスフォーメーション)やGX(グリーン トランスフォーメーション)の本質について私の考えをお伝えします。

 
無形資産への投資の重要性をお伝えましたが、情報通信化社会や脱炭素社会の潮流に乗ってDXやGXに投資すれば事が済むと言う訳ではありません。

 
重要なのは情報通信機器やシステムを買って装備する事ではなく、それを扱う人間が変革することです。

 
トランスフォーメーションとは変質や変革という意味です。

 
人間の意識がトランスフォーメーションしなければツールを使いこなす事はできず成果(営業利益)は出ない。

 
もう20年近くも前になりますが私が駆け出しのコンサルタントだった頃、その時もIT化の波が押し寄せクライアント役員たちの机にもPCが備えてありました。

 
しかし、ほとんど活用されずPCメールすらできない方が多かったことを覚えています。

 
情報機器があっても頭が時代について行かなければ無駄銭になってしまう。

 
無形資産の中でも情報化資産への投資は時代のトレンドです。

 
しかし、最も重要なのは(経済的競争力にある)「人財教育力」「組織変革力」です。

 
このベースがなければ何をしても成果(営業利益)は出ない。

 
変化の時代だからこそ、経営リーダーの自己変革力が求められています。

 
まずは、自己に対する教育投資から始めてはいかがでしょうか?
↓↓
サイドバナー

 
ご質問及びご相談はオンラインでも承ります。

 

          mail_100×100